犬の痙攣と発作:原因、対処法、そして飼い主が知っておくべきこと

痙攣や発作が愛犬に起きた場合。誰でも驚きます。

何をしてあげたらよいか、分からないため、とても不安になります。

この記事では、救急脳神経外科で働く医療従事者の私が、痙攣の原因や対処法、そして飼い主が知っておくべき情報について詳しく解説します。

大丈夫!優しいあなたがそばにいてあげたら、愛犬は安心しますよ。

痙攣って何?

痙攣しているチワワ

痙攣しているチワワ

痙攣(けいれん)とは、筋肉が急に勝手に動くことを言います。

例えば、手や足がピクピクと動くことがそれにあたります。このピクピクする動きは、突然始まり、しばらくすると自然に止まることもありますが、間をおいて繰り返し起きることもあります。

筋肉が動くのは、体の中の神経という部分が指示を出しているからです。でも、何かの原因でこの神経の指示がうまくいかなくなると、筋肉が勝手に動いてしまう(必要以上の指示が与えられてしまう)ことがあります。それが痙攣です。

なぜ痙攣が起こるでしょうか? それは、体の中の塩分のバランスが崩れたり、筋肉を使いすぎたりすると、起こりやすくなります。また、寝ているときに足が突然痛くなる「足がつる」のも、痙攣の一種です。

てんかんとの違いは?

てんかん(epilepsy)  

てんかん(epilepsy)

てんかんは、脳の異常な電気活動が原因で起こる発作です。

この異常な電気的な活動が起こると、体の動きや意識に変化が現れます。てんかんの発作はさまざまな形で現れ、全身の筋肉が痙攣する「全般発作」や、一部の筋肉が痙攣する「部分発作」などがあります。

医療現場では「エピる」「エピった」とも言われています。

痙攣はその一部として現れることがありますが、すべての痙攣がてんかんを意味するわけではありません。

てんかんと痙攣の主な違い

  1. 原因:てんかんは脳の異常な電気活動が原因で発作が起こるのに対し、痙攣は筋肉が不随意に収縮する現象です。
    痙攣の原因は、電解質の不均衡や筋肉の疲労、薬物の副作用など多岐にわたります。
  2. 持続時間:てんかんの発作は、数秒から数分、場合によってはもっと長く続くことがあります。
    一方、痙攣は通常、短時間で終わることが多いです。
  3. 意識の変化:てんかんの発作の際、意識が変わることが多いです(意識消失を起こすこともあります)。
    一方、痙攣だけの場合、意識は通常、変わりません。

痙攣の前兆とは?

突然のけいれんも、実は何かしらの前兆がある場合があります。これらの前兆を正しく認識することで、痙攣の発作を予測し、適切な対応をとることができます。

無駄吠えや不安げな様子

犬はしゃべることはできませんが、不安や恐怖を感じると、普段とは異なる無駄吠えをしたり、飼い主や他の犬に対して 、べったりとした行動をとりアピールすることがあります。

ふらつきや立ち上がれない

痙攣の前兆として、歩行中にふらついたり、立ち上がるのが難しくなったりすることがあり、身体のバランス感覚が乱れることがあります。

これは、脳や神経系の異常が影響している可能性が考えられます。

突然の動きの停止や凝視

痙攣の発作の直前には、犬が突然動きを停止し、何も見ていない空間をじっと見つめる「凝視」の行動が見られることがあります。この時、犬は周囲の環境や飼い主の呼びかけに反応しづらくなることが多いです。

痙攣の主な症状

口周りの痙攣は、威嚇をしたような形をする

口周りの痙攣は、威嚇をしたような形をする

口や顔の痙攣

犬の痙攣は、顔や口周りの筋肉に最初に現れることが多いです。

これは、口を開け閉めする動きや、顔の筋肉がピクピクと動く様子として観察されます。特に、目の周りや耳の筋肉が、 勝手に動くことがあります。

理由もなく、顔と口まわりに、このような症状があらわれたら注意。

ピクピクとした不随意(ふずいい)の動き

不随意運動とは、自分の意志とは関係なく身体のある場所が、勝手に動くこと。

痙攣は、筋肉が勝手に収縮する現象であり、これが「ピクピク」という動きとして現れます。

この動きは、犬の体のどの部分にも現れる可能性があり、特に足や尾に見られることが多いです。

お腹の痙攣

犬のお腹の筋肉が痙攣すると、お腹全体が硬くなったり、波打つような動きをすることがあります。これは、犬が痛みを感じている場合や、消化器系の問題が関連している可能性が考えられます。

食べてはいけない物を食べてしまったとしたら、命にもかかわります。獣医の診察を受けましょう。

大量のよだれ

痙攣の際、犬は興奮状態になることがあり、その結果、大量のよだれを垂らすことがあります。また、口や顔の筋肉の痙攣により、よだれを飲み込むのが難しくなることもあります。

痙攣が起きている時の対処法

安全な場所へ移動

犬がけがをしないように、安全な場所に移動させます。バランス感覚も崩れることありますので、階段や高い場所からの転落を防ぐために注意が必要です。

犬の周りにある危険な物を取り除き、柔らかいクッションや毛布を敷いて、頭や体を守るようにします。

飼い主の安全を確保

痙攣中の犬は、予測不可能な動きをすることがあります。

普段の愛犬とは意識が違うのです。
この時は、「相手は犬であるんだ。」という意識を持ちましょう。

絶対に、無理に口の中に手を入れたり、顔を近づけたりしないように注意します。噛まれる可能性もあります。

痙攣の様子を観察

「どれだけ痙攣が続いたか」「具体的にどのような状態であったか」
時間や症状、発作の頻度などをメモしておきます。後で獣医師に症状を伝える際に役立ちます。

可能であれば、痙攣の様子を動画で撮影すると、診断に役立つことがあります。

痙攣が長く続く場合

痙攣が5分以上続く場合や、痙攣が繰り返し起こる場合は、緊急で獣医師の診察が必要です。速やかに最寄りの動物病院や獣医師に連絡し、指示に従います。

痙攣が終わった後

痙攣が終わった後も、犬は混乱したり、疲れたりすることがあります。静かな環境でゆっくりと休ませます。

水分や食事を与える前に、犬の様子をしっかりと観察し、通常の状態に戻っていることを確認します。

当たり前ですが、水分補給で犬にスポーツドリンクは飲ませてはいけません。
身体にやさしい常温の水をあたえましょう。

痙攣後の意識喪失について

横に休ませる

横に休ませる

痙攣を起こした後、意識を失うことがあるのは、脳への酸素供給が一時的に不足するためです。

痙攣は筋肉が勝手に動くことで、そのときに体が必要とする酸素量が増えます。しかし、何らかの理由で脳までの酸素供給が追いつかないと、意識を失ってしまうことがあります。

てんかんの発作

痙攣と同時に意識を失う場合、それは「てんかん」という病気の一つの症状である可能性があります。てんかんを起こした脳のには、異常な電気がながれ、乱れることで相当な負担がかかり非常に危険です。

意識が戻った後

意識が戻った後も、しばらくは頭がボーっとすることや、何が起こったのか覚えていないことがあります。そのため、無理をせず、ゆっくりと休むことが大切です。

痙攣や意識喪失は、体の異常を示す重要なサインです。もし、これらの症状が繰り返し起こる場合や、痙攣が長く続く場合は、獣医に診てもらうことをおすすめします。

場合によっては救急受診が必要なこともありますので、何か気になることや不安なことがあれば、先生に相談してみてください。

いざという時のための対応

「備えあれば患いなし!」
ペットを飼っている人は、普段から救急医療情報を把握しておくと、いざという時に安心です。

病院の情報をリストアップ

近所の動物病院や、夜間・休日も対応している24時間営業の動物病院の情報をリストアップします。

病院の住所、電話番号、診療時間、診療内容などの詳細をメモしておきます。

病院までの最短ルートや、交通手段も事前に確認しておきましょう。。

いくつかの救急動物医療の外部リンクを貼らせて頂きます。

  1. 夜間・救急動物病院マップ
  2. 都道府県から探す – 夜間・救急動物病院マップ

緊急連絡先を保存

病院の電話番号をスマートフォンや電話帳に保存しておきます。

また、獣医師や動物病院のスタッフとの連絡がスムーズに行えるよう、犬の基本情報や健康状態、過去の病歴などをまとめた情報を持ち歩くことをおすすめします。

項目 詳細
名前 [犬の名前]
種類/品種 [犬の品種]
生年月日 [犬の生年月日、分からなければ大体の年齢]
性別 [オスかメスか]
体重 [犬の体重(㎏)]
特記事項/アレルギー [アレルギー情報や特記事項]
過去の病歴 [犬の過去の病歴、手術歴、マイクロチップ等]
現在の健康状態 [犬の現在の健康状態]
現在の薬物/サプリメント [現在服用中の薬物やサプリメント]
獣医師の情報 [主治医の名前や連絡先]

緊急キットの準備

愛犬のための緊急キットを用意しておくと、いざという時に役立ちます。

キットには、犬の薬、絆創膏、消毒液、毛布、水、食料などの必要なアイテムを入れておきます。

家族や近所の人々との連携

家族や近所(犬を飼っている人)の人々にも、犬の緊急時の対応方法や連絡先を伝えておくと、飼い主がいない時でも迅速に対応できます。

痙攣の原因と診断方法

外部原因

  • 低血糖:犬の血糖値が低下すると、脳へのエネルギー供給が不足し、痙攣を引き起こすことがあります。
  • 低カルシウム:カルシウムは筋肉の収縮に関与しているため、その値が低下すると痙攣が起こりやすくなります。
  • 高体温熱中症や発熱などで体温が上昇すると、脳や神経系に負担がかかり、痙攣のリスクが高まります。
  • 甲状腺機能低下症:甲状腺の機能が低下すると、体内の代謝が乱れ、痙攣を引き起こすことがあります。
  • 肝疾患:肝臓の機能が低下すると、体内の毒素が排出されにくくなり、これが脳に影響を及ぼすことがあります。
  • 摂取した毒物:カフェインやチョコレート、特定の薬物など、犬にとって有害な物質を摂取すると、痙攣の原因となることがあります。

 脳内の原因

脳内での異常は、痙攣の直接的な原因となることが多いです。これには以下のような疾患や状態が考えられます。

  • 脳腫瘍:脳内に腫瘍ができると、その圧迫や刺激により痙攣が引き起こされることがあります。
  • 脳の感染症:細菌やウイルスによる脳の感染は、炎症や腫れを引き起こし、これが痙攣の原因となることがあります。
  • 先天的な脳の異常:生まれつきの脳の形成異常や、遺伝的な要因による脳の機能異常が痙攣を引き起こすことがあります。

診断方法

痙攣の原因を特定するためには、獣医師による詳しい診察が必要です。血液検査や尿検査、脳の画像診断(MRIやCT)などの検査を行い、痙攣の原因を突き止めます。

年齢別に起きる痙攣の要因

子犬

  • 先天的な要因:生まれつきの脳の形成異常や遺伝的な要因が痙攣の原因となることがあります。
  • 感染症:子犬は免疫力が未発達なため、感染症にかかりやすく、これが痙攣を引き起こすことがあります。
  • 栄養不足:適切な栄養が摂取できていない場合、特にカルシウムやグルコースの不足が痙攣の原因となることがあります。

若い犬

  • 外傷:事故や落下などによる頭部の外傷が、痙攣の原因となることがあります。
  • 毒物摂取:家の中の有害物質や食べ物(例:チョコレート、カフェイン)を誤って摂取することが痙攣の原因となることがあります。
  • 代謝異常:特定の疾患や状態により、体内の代謝が乱れることが痙攣を引き起こすことがあります。

老犬

  • 脳の老化:年齢とともに脳の機能が低下し、これが痙攣の原因となることがあります。
  • 脳腫瘍:人間と同じく老犬になると、身体に腫瘍が発生しやすくなります。若い犬に比べると老犬は脳腫瘍が発生しやすく、これが痙攣を引き起こすことがあります。
  • 慢性的な疾患:肝臓や腎臓の機能低下、心臓疾患などの慢性的な疾患が、痙攣の原因となることがあります。

犬の痙攣の原因や要因は、年齢だけでなく、体調や環境、遺伝的な要因など多岐にわたります。

犬の痙攣と発作についてのまとめ

  1. 痙攣の定義:痙攣は筋肉が不随意に収縮する現象。突然起こることが多く、部位を選ばずに発生する。
  2. てんかんとの違い:てんかんは脳の異常な電気活動が原因で起こる発作。痙攣はその一部として現れることがあるが、すべての痙攣がてんかんを意味するわけではない。
  3. 痙攣の前兆:無駄吠え、不安げな様子、ふらつき、立ち上がれない状態、突然の動きの停止や凝視など。
  4. 主な症状:口や顔の痙攣、ピクピクとした動き、お腹の痙攣、大量のよだれなど。
  5. 原因と診断:痙攣の原因は多岐にわたり、脳の疾患、感染症、代謝異常などが考えられる。正確な診断は獣医師の診察が必要。
  6. 年齢別の要因:老犬では脳の老化や疾患が原因となることが多い。若い犬でも発症することがあり、その原因は多岐にわたる。
  7. 痙攣時の対処法:犬の安全を確保し、痙攣の原因や状態を観察。痙攣が長時間続く場合や頻繁に発生する場合は、速やかに獣医師の診察を受ける。
  8. 緊急時の対応:緊急時に迅速に対応できるよう、受診できる病院の情報を事前に調べておくことが重要。

 

痙攣や発作は突然おこりますので、私たち飼い主にとって、とても心配な状況です。

普段から、正しい知識と対応を知っておきましょう!そうすることで、愛犬を落ち着いて守ってあげられます。

この記事が、皆様の愛犬とのより良い日々のための一助となれば幸いです。大切な家族である愛犬の健康と安全を守るため、日々の観察を忘れずにしましょうね。